そこは、見渡す限りの、地獄。
教室のドアは無残にも蹴られて無くなり、いくつかの机はなぎ倒されている。
そして黒板の前にいるのは、
担任――だった人。
そう。エドワード・エルリックは、もう反応しない。
もう笑いかけることも、話を聞くこともできない。
「う・・・うそでしょ、先生・・・・・・!」
ウィンリィが、泣きそうな声で呟く。
周りのクラスメイトも、シンと黙っている。
「先生・・・。僕、先生のこと、一生忘れません!!」
ロイがそう叫ぶと、他のクラスメイトも、「そうね・・・」、「先生、安らかに・・・!」と続く。
みんなの悲しみがピークに達したとき、
「いやオレ、死んでねえし」
エドワード・エルリックは、がばりと身を起こした。
エドの生き返りの衝撃で、クラスは一瞬固まった。
だがすぐに、3Bの生徒は自分の席に着くと、エドの話をおとなしく聞いていた。
「いいか、おまえら。何で勝手に人殺してんだよ。まだ生きてるっつーの。
つーか誰か脈確かめるとかしろよ、アルフォンスとかホークアイとか、できんだろ」
「すみません、先生・・・ビックリしちゃって」とアルフォンス。
「そこまで考えが及びませんでした」とリザ。
ホークアイのは絶対うそだよな、とエドが思っているときに、ウィンリィがうれしそうに話す。
「でもよかった。先生が死んじゃって無くて」
「人はあんな簡単に死なねぇ」
ウィンリィにツッコミを入れながら、少しうれしく思っていると、次はロイが口をあけた。
「でも先生。出だしがあんなのだったんですから、やっぱり死んでたことにしません?
なんていうか、せっかくインパクトを大きくしたのに、これじゃ台無しです」
なんてことを笑顔でさらりと言うのが、ロイ・マスタングという男なのだ。
「マスタング・・・。テメーって男は・・・!!」
エドが殺意のこもった目で睨む。
しかし周りからは、「確かにそうかも」、という声が聞こえてくる。
「ちょ・・・、ちょっとおまえら!!それはいくらなんでもひどすぎだろ!」
エドが涙目で抗議しても、ロイ側の意見は消えない。
そのうちウィンリィまでもが、
「やっぱり死んでたほうがなんていうか・・・、シリアスになったかもねー」
などと言い出す始末。
ああ、オレもう明日から学校きたくない・・・とエドがいじけ始めたとき、立ち上がったのが、
我らが3Bの良心、アルフォンス・ハイデリヒである。
アルフォンスは席を立つと、エドのそばへ行き、
「みんな、先生に何てこと言うの!!先生は大変な目にあったんだよ!!」
と、エドをかばってくれる。
アルフォンス・・・と、エドが今までとは違う涙を流しそうになったとき、アルフォンスは、
「こんなに小さいけど、この人は僕らの先生なんだ!!!だからそんなこと言うのはやめよう!!」
と、言い放った。
エドは真っ白に燃え尽きる。小さいといわれた悲しみで。
そして、さっきの地獄のような記憶が、蘇ってきたのだった。
それは、10分前にさかのぼる。リザ・ホークアイが思いっきり空気を吸ったとき、
「うるせえええッッッッッ!!!!」
という怒号と、教室の前方にあるドアが蹴り飛ばされる音が、一度にした。
3Bの、エドも含める全員が、一瞬状況を理解できなかっただろう。
ロイとケンカしていたエドも。
ため息をついていたウィンリィも。
傍観者でいたハボックも。
エドとロイ、どちらを止めるか迷っていたアルフォンスも。
唯一ケンカを止めようとしたリザも。
みんな、わからなかっただろう。
どうして・・・、どうして、3年A組の担任、
イズミ・カーティス先生がいるのか。 |