アルフォンス・ハイデリヒが何かおかしい、と思ったきっかけは、本当に些細なものだった。 何だろう・・・。何かおかしい。何かはわからないけど、本当に何か・・・。 そこでアルフォンスはハッと気づいた。 そうだ、今日先生は、先生は――。
ボケてない!!
「先生、過労だって・・・」 ウィンリィがため息をつきながらクラスメイトに事実を伝える。
その瞬間、3Bの生徒全員が悲鳴を上げ、ロイの「きゃああああ!」という悲鳴にリザが「委員長、その悲鳴マジでキモイです」
「何事だゴルァァァァ!!!」 隣のクラスの担任であるイズミ先生が扉を蹴破って入ってきた。 「なんだ3Bィィィ!何また騒いでんだ、あぁん!?エドはどこだ!早くエドを出せゴルァ!って、ん?どうした、お前ら?」 ウィンリィたちの異変に気づき、イズミが声をかける。 「イ・・・イズミせんせぇ・・・」 ウィンリィが目を潤ませる。 「せ、先生g――」 「先生がぁぁぁぁ!!!先生が、急に倒れてぇぇぇ!!!うぇっぐ」 「・・・は?」
ロイの「先生がぁぁぁぁ!!!先生が、急に倒れてぇぇぇ!!!うぇっぐ」というリアクションにドン引きし、「は?」とつぶやいてのである。
「なんでしょう」 イズミに呼ばれたリザが立ち上がる。 そのリザに向かって、イズミは真顔で疑問符を投げかける。 「このマスタングは何だ。えらく気持ち悪いんだが。あとついでに、エドの状況も教えてくれ」 「ついでが本題だと思うのですが・・・。まあ、委員長についてはいつものことです。いつものように気持ち悪いんです、この人」 「そうか。状況が把握できた」 「いや、なんでですか!!!」 ウィンリィはツッコんだあと、ちゃんとエドが倒れたことなどをイズミに報告し、 「そうか。なら私は、エドを保健室へ運んでこよう」 その後エドは、イズミによって保健室へ運ばれ、今に至る。
「先生、最近働きすぎだったもの、無理ないわよね・・・・・・。よくは知らないけど」 ウィンリィが自分で作ったしんみりムードを、最後の一言でぶち壊した。 「いやそれ、思ってても言っちゃだめでしょ」 アルフォンスが小声でやんわりとツッコミを入れる。 「まあそれはそれとして」 ウィンリィは何事もなかったかのように続ける。 「やっぱ先生のお見舞い行ったほうがいいのかな~?」 「いや、保健室にいるんだよね」 アルフォンスは暴走しかけてきてる3Bを止めなきゃという思いから焦り始める。 だがウィンリィたちはそんなアルフォンスに構わず、 「うん、そうだよね、お見舞い行ったほうがいいよね。じゃ、行こうか!」 授業中であるにもかかわらず、教室を飛び出していったのである。
エドはぱちり、と目を覚ますと、まわりを眺めた。 ・・・あれ、ここ保健室じゃん。 エドはカーテンで仕切られた空間を抜けて保健室の中を見回したが、保健教師の姿はなかった。 ・・・なんでオレ保健室にいるんだっけ? ボーッとする頭で考えていると、いきなり保健室の扉が開き、
「生きてはいると思いますけど」
ロイとリザはエドを見つけるなり、 「先生ェェェェェ!無事でよかった先生ェェェェェ!」 「テンションがうぜえんだよ!」 抱きついたり、 「あ、先生、これお見舞いの品です」 「いや、なんでお前今フルーツの盛り合わせ持ってんの!?」 エドにツッコミを入れさせるなど、お見舞いに来たものとは考えられないような行為を繰り返していた。
そしてついに痺れを切らせたエドが口を開く。 「いい加減帰りやがれコノヤロー!!!ぜってぇお前らからかいにきてるだろ!!」 「何言ってんですか先生!!なんでわかったんですか!!」ロイが椅子を蹴って立ち上がる。 「いや、ホントだったのかよ!!」 エドは方で息を整えていると、リザが申し訳なさそうな顔をしながら立ち上がった。 「・・・先生、申し訳ありません。私たち、先生に早く元気になってほしいと、焦りすぎたようです・・・」 「え、いや」 そんな顔をされると、さすがのエドも困ってしまう。 「先生、これ、本当のお見舞いの品です。さ、委員長、帰りますよ」 リザはそういうと、ロイの首根っこを引っ張りながら保健室を後にした。 残されたのは、エドとお見舞いの品だけ。 「・・・・・・」 エドはしんみりとした空気の中、一人お見舞いの品を開けた。 「・・・ホークアイ、これをさ、今渡すかな、普通・・・」 エドはそれこそ表情は笑顔であるが、血管が浮き出て、怒りを表している。 そしてその手には、ジェンガ。
エドは静かに、だが激しく怒りを示した。
続いてやってきたのはウィンリィ。(ロイとリザと同じ登場の仕方で) 「せーんせ!大丈夫?」 「お前は倒れたオレが大丈夫に見えんのか?だとしたらお前のほうが大丈夫なのか?」 エドは苛立ちをまったく隠さないでウィンリィとの会話を続ける。 「まあまあ!きっと先生のイライラの原因は、話し相手がいれば解決すると思うわけよ」 ウィンリィはあくまでほがらかに続ける。 「だからハイこれ!あたしからのお見舞いの品だから!早く元気になってね、アデュー!」 ウィンリィはそういうと、電光石火の速さで保健室を出て行った。 そしてウィンリィが出て行った3秒後、エドの怒号が校内中に響き渡った。
「っだよあいつら・・・。オレを苦しめてるのはてめーらだっつーの・・・」 エドが小さくつぶやいたとき、またしても保健室の扉が開いた。 「ああん!?次は誰だオルァ!!」 エドが威嚇しながら入ってきた人物を見ると。 「・・・あれ、アルフォンスじゃん」 「先生・・・。まず威嚇って、どんなお見舞いされたんですか」 アルフィンスはやれやれ、というようにエドを見た。 「そんなん言わなくてもわかってんだろ、すごかったんだぜ」 そのあとエドは軽く20分、アルフォンスに今までの経緯を話した。 アルフォンスが昼休みが終わるかどうか、ハラハラしていることも知らずに。
エドはそう締めくくると、やっと話は終わった。 それでもまだエドは足りていないようで、キューピーにぶつぶつ話しかけている。 「・・・まあ、しょうがないですよ。みんな先生のこと、心配だったみたいですし」 ついに担任がおかしくなったな、と感じながら、アルフォンスはフォローを入れた。 「えー、でもさー」 ぶつぶつ文句を言う担任を見ながらアルフォンスは立ち上がり、 「とにかく、大事に至らなくて良かったです。あとこれ、みんなからです」 そう言って小さな封筒を渡して、アルフォンスは保健室を出て行った。
エドが怪訝な顔をしながら封筒を開け、その直後
「・・・・・・」
小さく笑った。 「なんだよあいつら、こんな地味なことしやがってよ・・・」
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鋼の錬金術師
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